デジタル遺言(保管証書遺言)とは?改正民法の要点と今できる備えを解説
「パソコンやスマートフォンで遺言が作れるようになる」というニュースをご覧になり、もう自分でも作れるのだろうか、今ある遺言はどうなるのだろうかと気になっている方は多いと思います。
2026年6月に成立した改正民法で、新しい遺言の方式が設けられました。この記事では、その制度の中身と、いつから使えるのか、そして制度が始まるまでの間に今できることを、相続税の観点も交えてご説明します。
この記事のポイント
- 「デジタル遺言」の正式名称は「保管証書遺言(ほかんしょうしょゆいごん)」。パソコンなどで作成した遺言を法務局が保管する方式です。
- 2026年6月成立の「民法等の一部を改正する法律」で創設。ただし2026年9月時点ではまだ利用できません(利用開始時期は今後定められます)。
- 今すぐ遺言を用意したい場合は、これまでどおり自筆証書遺言や公正証書遺言で備えます。
デジタル遺言(保管証書遺言)とは何か
これまでの遺言には、主に自筆証書遺言と公正証書遺言の2つが使われてきました。自筆証書遺言は、原則として遺言者本人が本文・日付・氏名を自書して作成する遺言です。なお、添付する財産目録については、一定の要件のもとパソコンなどで作成することもできます。公正証書遺言は、公証役場で公証人に作成してもらう遺言です。今回の改正で、これらに加わる新しい方式として保管証書遺言が設けられました。
保管証書遺言は、パソコンなどで作成した遺言のデータ(またはそれを印刷したもの)を法務局に預け、本人が遺言の内容を法務局の担当者(遺言書保管官)の前で口頭によって述べるなどの手続を経て、法務局が保管する方式です。手書きの負担がなく、法務局が保管するため紛失や改ざんの心配が小さいことが特徴とされています。
注意:「デジタル自筆遺言」という言い方について
報道などでは「デジタル遺言」「電子遺言」と呼ばれることがありますが、これは自筆証書遺言をパソコンで作れるようにした制度ではありません。新たに設けられた「保管証書遺言」という別の方式です。また、後で説明する自筆証書遺言の押印の見直しとも別の改正です。
いつから使えるのか
この改正法(民法等の一部を改正する法律・令和8年法律第45号)は、2026年6月17日に成立し、同年6月24日に公布されました。ただし、公布されたことと、実際に使えるようになること(施行)は別です。

保管証書遺言の制度は、法務局のシステムを新たに整える必要があるため、公布の日から3年を超えない範囲内で、今後定められる日から施行されるとされています。その日を定める手続は2026年9月時点では確認できず、現時点ではまだ利用できません。
なお、後で述べる押印の任意化など、システムの改修を要しない見直しは、公布の日から1年を超えない範囲内で施行されます。
「制度が成立した」と聞くと、すぐに使えるように感じるかもしれません。実際には施行の日がまだ定まっておらず、今の時点ではパソコンで作った遺言を法務局に預けることはできません。制度の開始を待つ間の備えについては、記事の後半でご説明します。
従来の遺言(自筆証書遺言・公正証書遺言)との違い
現在使われている遺言と、新しい保管証書遺言の主な違いは次のとおりです。なお、費用や様式の細かな点は今後定められる部分があります。
| 作成方法 | 保管 | 家庭裁判所の検認 | |
|---|---|---|---|
| 自筆証書遺言 | 本人が手書き(財産目録は一定の要件のもとパソコン等で作成可) | 自宅などで自分で保管、または法務局に預ける | 自宅などで保管:必要 法務局に預けた:不要 |
| 公正証書遺言 | 公証人が作成(公証人の手数料がかかる) | 公証役場 | 不要 |
| 保管証書遺言 (デジタル遺言) |
パソコンなどで作成 | 法務局 | 不要 |
表1 遺言の3つの方式の比較(オレンジ色が新しい方式)
用語解説:「検認」とは
相続開始後に家庭裁判所で行う手続で、相続人に遺言の存在と内容を知らせ、遺言書の偽造や変造を防ぐためのものです。手間と時間がかかるため、検認が不要かどうかは実際の使い勝手に関わります。
どうやって作るのか(想定されている手続の流れ)
法務省の資料によると、保管証書遺言は次のような流れが想定されています。

手続の細かな部分は、今後の政省令やシステムの整備で具体的に定められる予定です。制度開始の前に、あらためて公的な案内を確認することをおすすめします。
あわせて変わる点:自筆証書遺言の押印が任意に
今回の改正では、保管証書遺言の創設とは別に、自筆証書遺言などについて押印を任意とする見直しも行われます。これまで自筆証書遺言は、財産目録を除く本文・日付・氏名を自書し、押印することが必要でしたが、改正後は押印がなくても有効に作成できるようになります。
| 自筆証書遺言 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 本文・日付・氏名の自書 | 必要 | 必要(変わりません) |
| 押印 | 必要 | 任意(なくても有効) |
| 施行時期 | - | 公布の日から1年以内 |
表2 自筆証書遺言の押印に関する見直し
ただし、押印が任意になっても、自筆証書遺言で本文などを自分で書く必要がある点は変わりません。この見直しによって「自筆証書遺言もパソコンで作れるようになる」わけではないことに注意してください。押印の任意化は、公布の日から1年を超えない範囲内で施行されます。
相続税の観点から見た注意点
遺言は、誰にどの財産を引き継ぐかを決めるものです。遺言を作ること自体で相続税が安くなるわけではありません。一方で、遺言でどの財産を誰が取得するかは、相続税の特例の使い方に影響することがあります。

配偶者の税額軽減
配偶者の税額軽減という制度は、配偶者が遺産分割や遺贈(遺言によって財産を受け取ること)によって実際に取得した財産をもとに計算されます。配偶者が取得する財産が決まっていることが前提で、相続税の申告期限までに分割されていない財産は、原則としてこの軽減の対象になりません。
小規模宅地等の特例
自宅の土地などの相続税評価額を抑えられる小規模宅地等の特例は、その土地を誰が取得し、どのような要件を満たすかによって、使えるかどうかが変わります。こちらも、原則として申告期限までに取得者が決まっていることが求められます。
このように、遺言で「誰に何を残すか」を定めておくことは、これらの特例を使いやすくすることにもつながります。ただし、要件は財産の種類や取得者の状況によって細かく異なります。また、二次相続(配偶者が亡くなったときの次の相続)まで含めて考えると、一つの分け方がつねに最善とは限りません。分け方によって相続税の負担が変わる場合があるため、財産の内容に応じた検討が必要です。
施行までの間に、今できること
制度が始まるのを待つ必要はありません。今の時点で遺言を用意しておきたい場合は、次の方法が使えます。
| 今使える方法 | 特徴 |
|---|---|
| 自筆証書遺言 | 本人が手書きで作成します。法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用すれば、法務局が保管し、相続開始後の検認も不要になります。 |
| 公正証書遺言 | 公証人が関与して作成するため、形式の不備が起きにくく、検認も不要です。 |
表3 施行前に利用できる遺言の方式
保管証書遺言が始まった後で、その方式に作り直すべきかどうかは、制度が始まってから検討すれば足ります。遺言は、本人に判断能力があるうちにしか作れません。まずは、今使える方法で意思を残しておくことが大切です。
よくある質問
Q今すぐスマートフォンで遺言を作れますか。
Aまだ作れません。制度は成立していますが、施行の日が定まっておらず、2026年9月時点では利用できません。
Q今ある遺言は、改正でつくり直しが必要になりますか。
Aこれまでに有効に作成した遺言が、この改正によって無効になるわけではありません。新しい方式は、選べる選択肢が増えるものとお考えください。
Qデジタル遺言にすれば相続税は安くなりますか。
A遺言の方式によって相続税額が変わることはありません。相続税は、誰がどの財産をいくら取得したかなどによって決まります。
まとめと、相談を検討したいケース
デジタル遺言(保管証書遺言)は、パソコンなどで作成して法務局が保管する新しい方式で、2026年6月に成立しました。ただし施行はこれからで、今はまだ使えません。遺言を今から用意したい場合は、現行の自筆証書遺言や公正証書遺言で備えられます。
遺言を作成する前に、相続税への影響も確認しておきたいケース
- 自宅の土地や賃貸不動産があり、誰が引き継ぐかで小規模宅地等の特例を使えるかどうかが変わりそうな場合
- 配偶者と子など複数の相続人がいて、一次相続と二次相続の両方を見据えて分け方を考えたい場合
- 相続財産に占める不動産の割合が高く、納税資金をどう用意するかが不安な場合
- 遺留分(一定の相続人に法律上保障される最低限の取り分)をめぐって、家族の間で意見が分かれそうな場合
当事務所では、相続税や相続手続の観点から、遺言の内容についてのご相談を承っています。ご自身の場合にどの方法が適しているか迷われたときは、一度ご相談ください。











