令和6年以降~贈与を利用した相続税対策~
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贈与を活用した相続税対策
「相続税はできるだけ少なくしたい。」これは誰しもが思うことではないでしょうか。それでは相続税をできるだけ少なくするにはどうすればいいのでしょう。この目的のために最も効果があるのは、ズバリ相続税の対象となる財産を減らすことです。
相続税には基礎控除というものがあり、亡くなった人の財産が一定額に満たない場合には課税されないこととなっています。この基礎控除を超える場合でも、その財産額が少ないほど相続税は少なく済みます。
しかし相続税を減らすために財産を費消すれば、子や妻に少しでも多く財産を遺してやりたい、事業を引き継ぎたいといった意志を満たすことはできなくなってしまいます。
そこで、子や妻に財産を引き継ぎつつ、かつ相続税を節税するために利用される方法の1つが贈与を利用した相続税対策です。しかし、やみくもに贈与を行っても、相続税対策にならなかったり、かえって税負担が増えてしまうといった可能性もあります。贈与税が相続税の補完税と言われる所以の一つです。
ところで、贈与税に関しては、令和5年の税制改正において大きな改正が行われており、その概要については以前こちらのコラムにも掲載させていただきました。大きな改正点は、「相続時精算課税制度における基礎控除の創設」と「暦年課税における生前贈与加算期間の延長」です。
ケース別に対策を考える
そこで、税制改正後における贈与を利用した相続税対策について、どのような対策が可能なのか、そして留意したい点について少しお話させていただきたいと思います。贈与を利用した相続税対策を行う場合は、贈与者の財産内容、家族構成、贈与する金額などにより、選択する方法が違ってくるものと考えます。
これらの前提条件はケースによって様々なわけですから、ここでは贈与する対象者別に、また相続時精算課税制度を選択できる場合は暦年課税とどちらを選択する方が有利なのか、大まかな方向性について考えます。
1,法定相続人(配偶者や子など)、受遺者(遺言によって財産を取得する人)に対する贈与
相続が発生した場合、通常これらの人が被相続人の財産を引き継ぐことになりますから、これらの人に財産を生前に贈与する場合について考えます。
今回の税制改正により令和6年以降の暦年課税贈与については、相続開始前の贈与加算の対象期間が3年から7年に延長されました。この加算期間内の贈与であれば、基礎控除の110万円部分も含めて加算対象となります。
しかし、この加算期間を超えて行われた贈与については加算対象外です。したがって、贈与者が比較的若く、亡くなるまでの期間が7年を超えると考えられ、比較的多額の贈与をする場合には、暦年課税が有利となる可能性があります。この場合の7年間とは、相続開始日が基準日となりますから、1日でも早く贈与を行うことで加算対象期間から除外することができるかもしれません。
一方、相続時精算課税制度を利用した贈与(その年の1/1現在で、60歳以上の父母から18歳以上の子への贈与等が対象)では、この制度の対象とした贈与額については期間の制限なしに加算する必要があるものの、新たに設けられた基礎控除以下の贈与額部分については贈与加算する必要がありません。
贈与者が比較的高齢で、7年以内に相続が開始することが見込まれ、年間の贈与額が110万円以下の少額の贈与を続けるようなケースでは、こちらが有利となる可能性があります。
2.法定相続人以外(孫や嫁・婿など)に対する贈与
暦年課税による贈与について贈与加算の対象となる者は、「相続・遺贈によって財産を取得した者」であって、通常その相続等によって財産を取得しない者はこの贈与加算の対象となりません。(一定の場合を除きます。)
したがって、贈与者が比較的高齢であり、相続開始までの期間が短いと見込まれる時には、これらの者への贈与は、相続開始直前にでもできる1つの相続税対策となるでしょう。
また、孫への贈与については、通常の親から子、次いで子から孫への相続を、親から孫へ贈与することで、相続税を一代回避することができます。例えば複数の孫へ基礎控除の110万円以下の贈与を長年にわたって行えば、相当の額の財産を孫の世代に移転させることができます。
法定相続人以外への贈与で見逃しがちな注意点
法定相続人以外へ贈与する場合、注意すべき点があります。例えば、孫は代襲相続人や孫養子等でもない限り法定相続人ではありませんから、通常遺産を相続することはできません。しかし、生命保険の受取人を孫に指定している場合等は注意が必要です。
生命保険金は受取人の固有の財産とされ、通常の相続財産ではありませんが、相続税法上はいわゆる、みなし相続財産とされ、相続税の課税対象となります。
したがって、孫がみなし財産である生命保険金を取得した場合は、前記の「相続・遺贈によって財産を取得した者」に該当することになり、贈与加算の対象となります。
このため、法定相続人でない孫等への贈与を考える場合には、生命保険金の受取人になっているなど、みなし相続財産に該当する財産を受け取ることがないようにしておく必要があります。
その他の対策
前記以外にも、孫へ教育資金や結婚・子育て資金を贈与することによる相続税対策や住宅取得資金贈与の非課税制度を使った相続税対策なども考えられますが、これらの概要については、次回以降のコラムで説明させていただこうと思います。
迷ったときには税の専門家にご相談を
以上受取人別に贈与を利用した相続税対策について考えてきました。ただ実際には、贈与者の余命、財産内容、家族構成、贈与する金額など条件はケースによって異なり、それに伴い有利不利も変わってきます。
また、相続時精算課税制度を選択した場合には、その贈与者からの贈与については暦年課税制度に戻せないことや、相続時精算課税制度により贈与を受けた宅地等については、相続時に小規模宅地等の特例が使えないなどのデメリットもありますので、具体的な相続税対策を考えるにあたっては専門家によるシミュレーション等を依頼されることをお勧めします。
当相談室では相続税・贈与税についての相談(初回90分まで無料、ただし具体的シミュレーションについては料金が発生します。)を承っております。ぜひご利用ください。
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- 堺市と和泉市で相続税に特化した税理士事務所が運営する「堺泉北相続相談室」の広報担当がみなさまの相続に役立つ情報を日々発信しております。
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